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固定資産税が一気に6倍に!空き家の実家を放置していたら思わぬ「災難」も
出典:Yahoo!JAPANニュース日本の空き家数は既に900万戸を超え、大手シンクタンクの推計によると、この先対策が進まない場合、2038年には全家屋の3軒に1軒が空き家になるという。近年、国は法律改正や相続登記の義務化などで空き家対策を加速させている。そうした変化を知らずに、空き家を放置していると、思わぬ「災難」が降りかかるかもしれない。父親の高齢者施設入居で空き家になった実家が「管理不全空き家」に認定された男性の体験を紹介する。
【グラフ】まさに右肩上がり!日本の空き家数 (森田 聡子:フリーライター・編集者)
突然届いた「管理不全空き家」の勧告
都内在住の50代男性は、昨年末、実家を慌てて売却した。父親が高齢者施設に入居してから4年近く誰も住んでおらず、庭木や雑草が伸び放題、家の中も父親が暮らしていた当時のままでモノが溢れていたが、運よく残置物ごと買い取ってくれる業者が見つかった。
売却を急いだ理由は、実家が「管理不全空き家」に認定されたことだという。
管理不全空き家は2023年12月に改正された空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)から導入された新制度で、自治体ごとに細かい規定は異なるが、ざっくり言うと問題の多い「特定空き家」の予備軍といった位置付けだ。
倒壊や衛生、防犯上のリスクが極めて高い特定空き家は、2015年の空き家対策特別措置法施行から自治体による注意、指導、勧告などが行われるようになった。それでも応じない場合は自治体が建物を解体する代執行に至るケースも出てきている。
男性の実家はそこまでではなく、あくまで予備軍としての「管理不全空き家」だったが、慌てて対応しなければならなくなったのは、特定空き家と同様、勧告を受けると住宅用地の特例が適用されなくなるためだ。
この特例は、敷地面積が200m2 までは固定資産税が6分の1、都市計画税が3分の1、200m2 を超えた分は固定資産税が3分の1、都市計画税が3分の2に減額されるというもの。
庭にゴミを投棄され、自治体から「悪臭がする」
男性の実家の場合、特例から外されると税額がこれまでの4倍以上に跳ね上がり、男性の自宅マンションの税金とほとんど変わらない水準になる。
父親に管理不全空き家や住宅用地の特例の解除について説明したところ、「施設の費用もあるし、とてもじゃないが払っていけないから家を売ってくれ」と頼まれた。
男性の実家がある地域は都心に勤務する人のベッドタウンとして根強い人気があり、空き家が出ても比較的早く売却や利活用が進むためか、緊急性が高い特定空き家の数はそれほど多くないようだ。それでも核家族化や住民の高齢化が進んだことで放置空き家は着実に増えており、管理不全空き家への対策を強化しているらしい。
男性の場合は、父親が施設に入居した時点で実家を手放す選択肢もあった。実際、父親からも「買い手が見つかったら、売ってもらって構わない」と言われていたそうだ。
とはいえ、父親の帰る家をなくしてしまうことには抵抗を感じたし、自分が育った家だけに愛着もあった。前述した通り住宅としての需要も強い地域にあるので、「売る気になれば、いつでも売れる」と楽観的に考えていたという。
現実には、仕事が忙しかったこともあり、父親の施設には時折足を運んでも、誰もいない実家を訪れる機会は激減した。
「父親に実家から必要な物を持ってきてほしいと頼まれた時には探しに行くが、その際に家の中を片付けたり、外の様子を見たりすることはほとんどなかった」
男性には3歳下の妹がいるが昔から父親と折り合いが悪く、母親が亡くなった後はほとんど実家に寄り付かなくなった。結果的に、家の劣化は急速に進んだ。
空き家になってから半年ほどすると、隣の家から父親のもとに「庭木が敷地の外に飛び出して迷惑だ」とクレームが寄せられた。しばらくすると庭にゴミを投棄されるようになり、自治体から「悪臭がする」と連絡が入ったこともあった。
日本の空き家が900万戸になってしまった理由
車椅子生活の父親は苦情の手紙を受け取っても自分で対応することができない。代わりに何とかしてくれと頼まれるのは男性だが、日々の仕事に忙殺され、さらに妻とは互いの親の介護の問題でぎくしゃくしていたこともあって、対応が後手に回ってしまった。
というのも、男性の同僚や友人にも実家の空き家問題を抱える人が少なからずいる中で、男性の実家は深刻さや緊急性が薄いように思えたからだ。
飲み仲間である同僚は親が亡くなった後、実家の登記が親と叔父や叔母の共有になっていることを知った。自分に一本化しようとしたが、「それなら相応の金を寄越せ」という叔父がいて話し合いが難航。売るに売れない状態が続いている。
別の同僚は地方の大農家の息子で、広大な自宅の敷地の中には先祖代々の墓もある。迂闊には売れないと手間暇、お金をかけて何とか空き家を維持しているらしい。
こうした同僚たちに比べれば、男性の実家は流通市場に乗せやすい“優良物件”だ。周囲の家との境界もはっきりしているし、接道の問題もクリアしている。新耐震基準適用の建物なので、大地震が起きない限りは倒壊することもなさそうだ。
けれども、売却が決まった今はもっと早く売っておけば良かったと後悔しているという。売却先となった空き家事業を手掛けるスタートアップ企業の担当者から、次のような話を聞かされたからだ。
「家は国の資産でもあるんです。自分が使い終えたらしっかり次の人にバトンタッチして有効活用してもらわないといけない。なのにエゴや自己都合で放置している人が増えているから、日本の空き家が900万戸にもなってしまったんですよ」
担当者は男性の息子のような世代だったが、真摯な言葉には説得感があり、聞いているうちに我と我が身を振り返って猛省したという。
空き家の“売り時”はいつなのか
「うちの実家なら、父親が施設に入居した時が“売り時”だった。私の世代は既に自分の家があり、実家を引き継いでも持て余してしまう人が多いように思う。空き家問題は国民の義務と捉えて、一人ひとりがきちんとバトンタッチを考えていかないといけない」
空き家市場には、非営利団体やスタートアップ、大手企業なども参入してきており、再建築不可物件でも売却や利活用の道は広がっている。だからこそ、“売り時”がポイントになる。
例えば、相続した物件を売却するなら相続発生から3年経過した日が属する年末までに売れば、譲渡益(譲渡所得)から最大3000万円の控除が可能な「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が活用できる。
もちろん、男性のように住宅として需要がある地域の空き家と過疎化が進む地方の空き家とでは事情は異なる。ただ、人が住んでいない家の劣化は想像以上に早い。住まない&要らない実家を相続した場合は、適切な管理をしながら処分のタイミングを図っていくことが大切だ。
森田 聡子