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住宅ローンの繰り上げ返済「頑張りすぎて大後悔」…まさかの出費に悩む堅実夫婦が「計画すべきだったこと」
出典:Yahoo!JAPANニュース住宅ローンの繰り上げ返済は活用するべきなのか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「繰り上げ返済を行うなら、長期的に返済計画を考えたほうがいい。それによって生活に支障が出たら本末転倒だからだ」という――。
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■住宅ローン利用者の約8割が変動金利を選択
25年1月、日銀が政策金利の追加利上げを発表しました。住宅ローンを取り巻く状況は変化し続けています。今回は、今現在、住宅ローン返済中の方も、これからマイホームの購入を考えている方にもチェックしていただきたい、“住宅ローンの罠”をお伝えします。
今年1月、日銀の植田総裁が政策金利を0.25%から0.5%に引き上げる追加の利上げを発表しました。住宅ローンの金利には、主に固定金利と変動金利の2種類あることは皆さんご存知かと思いますが、変動金利に影響を与えるのが、今回利上げとなった、短期金利の一つである政策金利です。住宅金融支援機構の調査によると、現在、住宅ローン利用者の約8割が変動金利を選択しています。まさに多くの方の生活に直結する発表と言えるでしょう。
ちなみに、変動金利型住宅ローンは「短期プライムレート」を基準金利としています。そしてこの短期プライムレートは日銀の政策金利に影響を受けるため、日銀の発表した政策金利の利上げによって住宅ローンの変動金利に影響が出る、という関係性になっています。ちょっとややこしいですが、続報が出た時のために頭の片隅に入れておいていただければと思います。
■「繰り上げ返済」の思わぬ落とし穴
すでに3大メガバンクは3月に住宅ローンの固定金利を引き上げております。変動金利も4月には引き上げるのではないかと予測する声もあります。私もこの間、複数の金融機関の方とお話ししたのですが、金利を据え置いて新規顧客の獲得に動く会社もあれば、変動金利の見直しに向けて検討をしている金融機関もあり、2極化が進んでいるようにも見え、まだ注視が必要かなと思っています。
この金利上昇の局面において、変動金利を選択している方が、利息の支払いを極力少なくするために「繰り上げ返済」をすることは有効な手段のひとつです。ただ、繰り上げ返済を頑張り過ぎたことで思わぬ落とし穴にハマってしまう方もいるので、注意喚起の意味で、実例をご紹介しますね。
■想定外の中学受験で生じた「出費」
30代の時に約3500万円を借り入れして関東近郊にマンションを購入した森さん(仮名)。35年ローンで月々の返済額と修繕積立金などの諸費用の合計は12万円ほどでしたが、ボーナスや臨時収入があるたびに、まとまった金額を繰り上げ返済に充てていました。森さんはご夫婦共に地方出身で、2人とも高校まで公立を選択してきたこともあり、「のんびり子育てしていけばいい」と、子どもが未就学のうちからせっせと繰り上げ返済をしていたのです。……が、それから5年、まさかのピンチに陥ります。
というのも、子どもが小学校に上がった途端、森さん一家の居住地区が“お受験戦争の激戦地”であったことが発覚。周りのお友だちはほぼ全員塾通いをはじめ、遊び相手をなくした子どもは塾通いを熱望。結果、まったく予定していなかった中学受験をすることになってしまったのです。
しかも運悪く、同時期に森さんのご両親が体調を崩して田舎に何度も帰省することになり、出費がかさみました。さらに悪いことは続くもので、冷蔵庫や洗濯機といった大物家電が次々に壊れて買い替えを迫られた結果、手元の資金が100万しかなくなってしまいました。
■繰り上げ返済は悪ではない、重要なのは「資金計画」 森さん一家は繰り上げ返済のおかげで35年ローンを29年まで縮めることができたものの、不測の事態に対応するための余力までローン返済に注ぎ込んでしまったため、生活が回らなくなってしまったのです。
一方、繰り上げ返済のお金は元金に当てられるので、無駄な利息を極力払わないという点で非常に有効ですから、森さんの選択がすべて間違いだったわけではありません。森さん一家の例を反面教師として言えることは、最低でも、ご家族なら1年分くらいの生活費は口座に入れておきましょう、ということ。かつ、受験といった5年以内に想定される大きな出費についても別途確保しておいた上で、余力があればそのお金を繰り上げ返済に充てる、という資金計画が必要だったのではないでしょうか。
森さんと同じく繰り上げ返済を頑張り過ぎた結果、住宅ローン減税(控除)の対象から外れてしまった方もいました。住宅ローン減税を受けるには、ローンの返済期間が10年以上あることが条件のひとつです。しかし、繰り上げ返済を急ピッチで行った結果、ローンの返済期間が縮まり過ぎてしまい、住宅ローン減税の適用外となってしまったのです。
■マイホームを持った後に「家族で転勤先に引っ越し」
また、マイホームを持った後に転勤の話が持ち上がり、ご家族でお父さんの転勤先について行った結果、住宅ローン減税が受けられなくなってしまったケースもありました。当たり前ですが、住宅ローン減税はその家に居住していることが前提になるからです。結局その方は、自宅を賃貸として貸し出してローン返済に充てることで転勤期間を乗り切ったということです。
ただ、家族が引き続き住み続ける場合(いわゆる単身赴任)や、会社からの命令でやむを得ない場合などには引き続き住宅ローン減税が使える可能性もあるので、国税庁のサイトをチェックしてみてください。 住宅ローン減税はたびたび、制度の変更が行われています。当初、年末時点のローン残高の1%だった控除率が現在では0.7%と縮小した一方、子育て世帯や40歳未満の若者世帯には借り入れ限度額の上乗せが延長となるなど、立場によって優遇措置が受けられるものもあります。また、2024年以降は、新築の住宅を購入する場合には、一定の省エネ性能基準を満たした家しか住宅ローン控除の適用を受けられなくなりました。このように、住宅ローン控除の仕組みや控除が受けられる条件はたびたび変更になっているので、情報をアップデートすることが大切です。
■繰り上げ返済自体にはメリットも大きい
そのため、繰り上げ返済を行う際には、住宅ローン減税の組み合わせも含めてシミュレーションし、長期的に返済計画を考えるのがベストかなと思います。超低金利時代に慣れてしまうと繰り上げ返済についてピンとこない方もいるかもしれませんが、本来、利息の負担を軽減し、金利上昇のリスクヘッジにもなる選択です。しかし、それによって生活に支障が出てしまっては本末転倒ですし、本来受けられたはずの控除を受けられなくなってはもったいないので、できれば独立系のファイナンシャルプランナーといった中立的な立場の人に相談してみてくださいね。
何年かクレジットカードの支払いを滞納してしまった方がいざ家を買おうとした時に住宅ローンが組めなかったり、あまり良くない条件でしかローンを組めなかったりしたこともありました。また、病気が原因でやはり住宅ローンの審査に落ちてしまったお客様もいます。さらに、ローンは組めたものの、頭金をほとんど入れずに購入したために、売却時に結局、住宅ローンの残債だけ残ってしまった方もいて、住宅ローンの落とし穴を挙げると枚挙にいとまがありません。
金利が上がりつつある状況ではありますが、金利動向に振り回されずに、まずはご自身の足元の経済状況やライフイベントを確認することからはじめてみていただきたいと思います。
———- 高山 一恵(たかやま・かずえ) Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。 ———-