- 関連ニュース
- 家賃を2.5倍に値上げして入居者を追い出す、は許される? 「借地借家法」はどこまで守ってくれるのか
家賃を2.5倍に値上げして入居者を追い出す、は許される? 「借地借家法」はどこまで守ってくれるのか
出典:楽待不動産投資新聞都内のマンションで、オーナーが変わった途端に賃料が2.5倍となったケースが報じられ、話題になっている。
報道によると、大幅な値上げの通告を受け、退去を決めた住民もいた一方、一部の住民はこれを拒否。すると、オーナー側から残った住民への嫌がらせなのか、突然エレベーターが使えなくなり、高齢住民らが困っているという。
こうしたケースは過去にも何度か報道されたり、SNSに投稿されたりしており、近年増えているとみられる。
しかし、ある日いきなり2倍以上の賃料と改定することや、嫌がらせによる住民の追い出しともとれる行為に法的な問題はないのか。不動産トラブルに詳しい、関口郷思弁護士に聞いた。
相場を大きく上回る賃料が認められる可能性は低い
賃貸物件の運営コスト上昇や周辺相場に照らして、オーナー側から賃料改定の「お願い」が行われることがある。
住民がこれを了承すれば、賃料の値上げが実現する。拒否すれば、直ちに賃料値上げが実現することはない。それが不服なオーナーは、賃料増額請求権をもとに裁判を起こし、法廷で賃料を決める流れとなる。
借地借家法第32条1項
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。
では、この改定賃料を通達する際は、どれくらいの上げ幅であれば許容されるのだろうか。2倍、3倍のような大幅な値上げとなれば、現状の生活を維持できないという人もいるだろう。
こうした周辺相場を超えるような大幅な賃料改定に関して、関口弁護士は「値上げの通告自体に法的な問題はない」とした上で、裁判で争った場合には「基本的に、相場の2倍以上のような大幅に値上げした賃料が認められるとは考えにくい」との見解を示す。
「裁判例では、ほとんどのケースで元の賃料と相場賃料の間に落ち着きます。周辺相場を超える改定賃料が示された場合、仮に裁判になっても、オーナー側が提示した金額への増額が認められる可能性はかなり低いといえます」
周辺相場を大きく上回る賃料の通達は、値上げというより住民の退去を目的としていることも多い。物件の建替えを計画している場合や、民泊への転用を狙っている場合がその一例だ。
しかし、住民が賃料の改定を拒否し、入居し続ける意思を示せば、オーナー側は基本的にそれ以上の強い法的手段を取ることはできないとされている。
オーナーからの「嫌がらせ」に対抗できる?
報道では、ある日突然マンションのエレベーターが使用できなくなったとされている。こうした嫌がらせのような行為によって退去が促され、それが許されるとなると憤りを感じる人も多いのではないだろうか。
過去にも、共用部の電源を抜くなど、住民の退去を促す目的でオーナーが住民に嫌がらせのような行為をした事例がある。
しかし、その行為が「嫌がらせであった」という立証は難しく、行為自体が罪に問われるようなものでない限り、責任を追及することは難しい。
関口弁護士も「嫌がらせだという疑いが仮にあったとしても、設備老朽化のための点検、と言われてしまえば、それを止めさせることは極めて困難でしょう」と話す。
ただ、住民側に対抗する手段がまったく無いわけでもない。仮にエレベーターが長期間使用不可能になった場合、それを理由に賃料減額の主張をすることが可能だと考えられる。
とはいえ、減額できたとしても微々たる額になるだろう、と関口弁護士はいう。
「賃料減額の主張にあたっては、裁判例などをベースにしたガイドラインがあります。ここで、室内の風呂やエアコンといった設備が使えなくなった場合が10%程度の減額とされていることを考えると、共用部のエレベーターはそれよりも小さな減額となると思われます」
裁判を起こす手間を考えると、減額の幅がそれに見合わない可能性が高くなりそうだ。そうなると、オーナー側から追い出し目的の「嫌がらせ」を受けた場合、住民側に明確な対抗手段がなくなってしまう。
関口弁護士は、こうしたトラブルの結末として、住民が泣く泣く退去するか、現実的な範囲の賃料増額で落ち着くか、オーナーが諦めるか、といった複数の可能性を指摘した。
「初めから住民の退去を目的にしている場合は、少しの賃料増額に落ち着くというのは少し考えにくいでしょう。そうなると、一般論として住民が出ていくか、オーナー側が諦めるかのどちらかになるような気がします」
◇
また、こうしたトラブルの端緒には、投機目的で物件を購入した外国人の存在もあると思われる。
関口弁護士は、オーナーが外国人である場合、こうした交渉やトラブルとなった際に、言語の壁を理由に一向に話が進まなくなるケースは往々にしてある、と指摘する。
「日本語がわからない」などと十分な説明を貰えないこともあるとして、住民が賃料増額の拒否等の意思を示すときは「書面で通達すると良い」という。
借地借家法ではオーナーと住民の双方にさまざまな権利が認められているが、それを振りかざすのではなく、互いが歩み寄ることで平穏で快適な住環境が作られることを忘れてはいけない。
(楽待新聞編集部)